図書館ブックフェア・「新書」

 岩波ジュニア新書」編集長・森光実氏をお招きして開催された“「新書」について語る会”の報告

 今回のブックフェアでは、いつもの講演会形式とは異なり、「新書」をめぐってお話をうかがい、語り合う会という企画として、去る2月23日に、「岩波ジュニア新書」編集長(元「岩波新書」編集部)でいらっしゃる、森光実氏にお越しいただきました。

 最初に、「新書」に求められているものは何だろうかということで、森光さんにお話いただきました。現代は、インターネットなどによって情報が氾濫し、現実認識も混乱しがちで、ユートピアを喪失しているのではないか。そして、否応なく押し寄せてくる社会不安のなかで自分を安定させ、癒してくれるものを求めているのではないか。しかし、とらえどころのない時代にあって、外側の社会と自分とのつながりに自己を安定させることは難しく、心の中とか、狭い仲間とのつながりに癒しを求めているように思われる。とはいえ、そうした狭さのなかだけに生きることは不可能で、どうしても現実と関わらざるを得ない。そこで、現実を把握するために、現実社会を生きていくうえでの何らかの対処の方途を見出すために、「新書」が読まれているのではないかと思う。つまり、現実性、現実的有効性という視点が「新書」づくりに求められているのだろうということでした。

 次に、「岩波ジュニア新書」について、「岩波新書」と比較しつつお話しいただきました。「ジュニア新書」の創刊当時(1979.6)は、「不登校」ということが問題になったりして、学校というものが大きく問われていた。そんな時代にあって、児童書と「岩波新書」とのあいだを埋めるものとして「ジュニア新書」が考えられた。したがって、最初の頃は、『思春期の生き方』、『きみたちと現代』、『高校生になったら』、『大学でなにを学ぶか』というようなタイトルが示すように、どう生きるか、なにを学ぶかといった基本的なことがテーマとなっていた。もちろん、そうしたテーマは今でも一貫してあるのだが、最近では、世界情勢、異文化理解、仕事についてなど、時代状況を反映したのものも多い。テーマは、幅広く関心がもたれそうなもの、関心をもってほしいものをいろいろとアンテナを立てて探していて、傾向としては、これからの社会や時代についてのものがおのずと意識されている。「ジュニア新書」は、「本格教養新書」である「岩波新書」との対比では、「学習新書」と位置づけられていて、教科学習のサブテキストとなるものも刊行され続けているので、ぜひ利用してみてほしいとのことでした。

 「新書」づくりの実際については、『ひめゆりの沖縄戦』、『車イスから見た街』、『ソウルで学ぼう』、『道具にヒミツあり』などの本を取り上げて、それらが作られていく過程でのエピソードを紹介していただきました。『ひめゆりの沖縄戦』では、現地に行って、いまだに不発弾が出てくる現実に遭遇したり、『道具にヒミツあり』では、日本製の砲丸がオリンピックで金・銀・銅を独占する事情を、物づくりにこだわる町工場の姿としてつぶさに実感したとのことでした。そのように、「ジュニア新書」の場合は、「岩波新書」の場合が著者とのやりとりが中心となるのとは違って、編集者が著者と一緒に取材したりして、体験や実感に裏づけられた「新書」づくりができるのが特徴であり、そこにつくる側としての楽しさや充実感があるとのことでした。

 休憩を挟んだ後半は、話題を広げて、「新書」についての質疑応答、座談となりました。以下にいくつかをQ&A形式で簡潔に記してみます。

Q:「新書」ブームを「岩波新書」はどう受け止めていますか。
A:そもそも多くの出版社が「新書」に参入するきっかけをつくったのが岩波新書の『大往生』(永六輔著)であって、「新書」でベストセラーがつくれるということを出版社に教えたことになりました。「岩波新書」としてはベストセラーが出たことはあくまでも結果であり、エッセー的なものは一つのジャンルです。「本格教養新書」宣言をした「岩波新書」としては、「新書」ブームだからといって、基本が変わることはありません。とはいえ、発行部数的には、やはりブームの影響はありますね。

Q:「岩波新書」の初刷りはどのくらいですか。昔と比べてどうですか。今はどのくらい売れるとよく売れたということなりますか。「ジュニア新書」の場合はどうですか。
A:「岩波新書」の初刷りは現在は、ふつう2万部です。よく売れたと言えるのは、10万部くらからですね。40年くらい前だと初刷りは6万部くらいでした。「ジュニア新書」の初刷りは9000部くらいです。
Q:本の作られ方は、編集部の企画からですか、それとも著者の持ち込みからですか。

A:基本的には編集部の企画です。「ジュニア新書」に比べると、「岩波新書」の方が持ち込み が多いです。時々困ってしまう持ち込みもあっても、苦労します。
Q:タイトルはどのように決まりますか。揉めることはありませんか。「ジュニア新書」のタイトルが今ひとつという感じがしますが。
A:基本的に著者と編集部が相談して決めますが、編集部の意向も強く反映します。なかには著者の方がこだわる場合あります。タイトルが最終会議で没になるということもあります。自分の経験では、「コンクリートが危ない」というタイトルについては、反対が多かったのですが、押し通してよかった例です。「ジュニア新書」のタイトルにはもう一工夫した方がいいのかもしれませんね。

*最後には、「ジュニア新書」のタイトルについては、あれはあれでいいのではないか、ああいうのがあるのもよいという、エールも送られました。いろいろなことをお聞きできて、楽しく、有意義に会を終えることができました。

(文責:図書館・鳥居明久)

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